大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)5733号 判決 1976年7月08日
原告
廣田精孝
被告
鈴鹿一
ほか一名
主文
被告両名は各目、原告に対し、金九万四九六〇円およびこれに対する昭和五〇年一二月六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その一を被告らの負担とする。
この判決は原告勝訟の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告らは連帯して原告に対し、金一二五万二七〇〇円およびこれに対する昭和五〇年一二月六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求原因
一 事故の発生
1 日時 昭和四七年一二月三一日午後一〇時四〇分頃
2 場所 大阪市東住吉区爪破西佃一番地先の交差点。舗装された中央分離帯のあるみとおしのよい平坦な直線道路で現場交差点には信号がある。
3 加害車 泉五五ま一〇七二
右運転者 被告 鈴鹿一
4 被害者 原告
5 態様 原告は東西に通じる中央分離帯のある道路を東進し、事故現場交差点において、右折のため、同交差点中央で自動車を南方に向きを変えて停車したところ、
原告運転自動車に追従していた被告鈴鹿一運転の自動車が追突した。
二 責任原因
1 運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)
被告鈴鹿通高は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。
2 一般不法行為責任(民法七〇九条)
被告鈴鹿一は、自動車を運転するにあたつては、前車に衝突しないよう適当な車間距離をおいて運転すべき義務があり、又は前車の停止あるいは進路変更等により、衝突の危険が生じたときには直ちに衝突を避けるため適当な回避手段をとれるよう注意する義務があるところ、被告鈴鹿一はこれらの注意義務を怠つた状態で運転した過失により、前記のとおり原告運転の車に追突した。
三 損害
1 受傷、治療経過等
(一) 受傷
外傷性頸椎症(むちうち症)
(二) 治療経過
昭和四八年一月二二日から昭和四九年五月二八日まで通院加療
(三) 後遺症
現在なお頸部に筋痛があり、受傷時には一過性の健忘症状があつた。通院治療により快方に向つたが依然として現在も常に首筋に強い痛みを覚え、仕事に従事しても根気が続かず、首筋が痛くなつて事務を続けることができなくなる。
そして第四、五椎間における不安定性があり、直接化傾向もある。(自賠法施行令別表14級該当)
2 逸失利益
(一) 休業損害
原告は事故当時一か月平均九万四、〇〇〇円の収入(年間給与から税金、保険料を控除し、残りの手取り額を12で除した平均額)を得ていたが、本件事故により、通院および自宅療養のため一か月間休職を余儀なくされ、その間九万四、〇〇〇円の収入を失つた。
(二) 将来の逸失利益
原告は前記事故による負傷のため、少くとも従来の収入額の一・五%にあたる収入を将来平均的に失つたものであるところ、原告の就労可能年数は今後三四年間と考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、約三三万円となる。
事故前年間収入一、一三二、六九七×〇・〇一五×一九、五五四=約三三〇、〇〇〇
3 通院交通費未払分 一、〇〇〇円
一日二五〇円の割合による四日分
4 慰藉料 六六万円
(通院中慰藉料 一〇万円
後遺障害に対して五六万円)
原告は前記のとおり通院加療したが、その間首に非常な痛みを感じた。
しかもなお現在むちうちの後遺症がある。
即ち、現在首筋に強い痛みを感じており、
事務に従事した場合根気が続かず、首筋が非常に痛くなり、事務を続けることが不可能となる。
事務に従事していなくとも急に振返つたり、首を傾けると非常な痛みを感じ、それがしばらく継続する。
首が痛むと思考力が減退し、事務能率が著しく減退する等の生活機能の減退が著しい。
5 花瓶 五〇〇〇円
6 弁護士費用 一九万五〇〇〇円
四 損害の填補
原告は次のとおり支払を受けた。
被告から三万二三〇〇円
五 本訴請求
よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。
第三請求原因に対する被告らの答弁および主張
一の1ないし4は認める。5は事故態様が被告鈴鹿一運転車が原告運転自動車に追突したものであることは認める。
二の1は認める。
二の2は被告鈴鹿一に過失のあることは認める。
三は争う。原告が事故のために頸部捻挫の傷害を負つたことは認めるがその程度は極めて軽微で二週間もすれば霧散する程度であつた。
四は認める。
原告自認の分の外に自賠責保険から七万二〇二〇円が支払われている。
証拠〔略〕
理由
第一事故の発生
請求原因一の1ないし4の事実および同5の事故の態様については被告鈴鹿一運転の自動車が原告運転の自動車に追突したものであることは当事者間に争いがない。
第二責任原因
一 運行供用者責任
請求原因二の1の事実は、当事者間に争がない。従つて、被告鈴鹿通高は自賠法三条により、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。
二 一般不法行為責任
請求原因二の2の事実は、被告鈴鹿一に自動車運転につき過失のあつたことは当事者間に争がないから、被告鈴鹿一は民法七〇九条により、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。
第三損害
1 受傷、治療経過
成立に争いのない甲第五号証によると、
原告は本件事故により頸部捻挫傷の傷害を受け、昭和四七年一二月三一日から昭和四八年一月一〇日までに九日間森本病院で通院治療を受けたが、ここでの検査、診察結果はX線上特記事項なし、頸部筋痛あるも外来通院加療にて諸症状徐々に寛解した。
後遺障害なしとのことであつたが、
成立に争いのない甲第二、第三、第四号証、乙第五、第六号証によると、
つぎに原告は義兄(弟)の紹介と通院の便宜から大阪市天王寺区内の松田神経科内科診療所において、昭和四八年一月二二日から昭和四八年二月一日までに四日間通院治療を受けたが、その治療内容は内服薬投与一四日分と点滴注射二回、それに賦活脳波、血沈、尿検、循環機能、頸部X線診断であつて、
その後同病院を訪れたのは一年余を経た昭和四九年四月一七日から同年五月二八日(症状固定時)の間に通院診察四回、この間に受けた処置は前年受けたと同様の賦活脳波、尿一般、血沈、頸部X線検査であつた。
しかして最終診察時における愁訴は、
(1) 事務に従事した場合根気が続かず、首筋が痛くなり、事務を続けることができなくなる。(2)事務以外の場合でも急に振返つたとき、あるいは首を少し傾けた場合でも首筋に強い痛みをおぼえる。(3)以上のように常に首筋に痛みをおぼえ、仕事等に根気等が続かない等であること。他覚的所見としては、ジヤクソンC4/5陽性、スパーリング陽性頸部レントゲン所見で第四、五椎間における不安性が認められ、直線化傾向もある。
以上の諸事実が認められる。
また、原告本人尋問の結果によれば、休職明けのころには仕事が忙しかつた関係もあるが、肩こり、頸筋の痛み、頭重感等があり、根気が続かないという状態が続いたこと。
さらにその後も朝方とか仕事の後などに後頸部真中辺りがしくしく痛み、そうなると後頭部も痛みだし、バツフアリンを服用するとおさまるという状態が続いており、雨天とかには頸筋が痛く憂うつになる。
頭痛は冬期とか春先きにもでることがあることがうかがわれる。
2 逸失利益
原告本人尋問の結果および成立に争いのない乙第一号証の一、二、乙第二号証によると、
原告は右受傷のため昭和四八年一月八日から同年二月一日まで二五日間勤務先である富田林市役所を欠勤したがこの欠勤によつて勤勉手当を五九八〇円減額された以外には本俸、賞与等に損失はなかつたこと。
右減額は一時限りのものであつて、さらに将来の待遇において右欠勤か給与面に影きようを及ぼすことは認められないこと。
従つて原告請求の休業損害と将来の逸失利益については右五九八〇円以外に財産上の損害を生ずると認めるに足る証拠がない。
3 成立に争いのない甲第五、第六号証、乙第五、乙第六号証に弁論の全趣旨を綜合すると原告はなお四日分の通院交通費として一、〇〇〇円を要したことが認められる。
4 原告のその余の請求にかゝる花瓶の損害についてはこれを認めるに足りる証拠がない。
5 慰藉料
本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、その他諸般の事情(特にさきに認定した治療経過によつて明らかなとおり、受傷後休職していた間も通じて一三日間通院加療したのみであつて、その後自宅療養していたとはいえ、一年余りも医師のもとを訪れずに経過したことは、治療を受ける側としてもできる限り自己の身体の状態に留意して綿密適切な治療を受け、もつて徒らに損害が拡大することのないよう配慮すべきであることを考えれば、いかに仕事の関係があつたとはいえ、退勤後の通院も十分考えられるのであるから、その態度は不容易であつたとのそしりは免れない)を考えあわせると原告の慰藉料額は一五万円とするのが相当であると認められる。
第五損害の填補
成立に争いのない乙第三号証には原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨を綜合すると、被告らは結局本件事故による損害の填補として原告に原告自認分を含めて休業損害、慰藉料等合計七万二〇二〇円を支払つていることが認められる。よつて原告の前記損害額から右填補分七万二〇二〇円を差引くと、残損害額は八万四九六〇円となる。
第六弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一万円とするのが相当であると認められる。
第七結論
よつて被告らは各自、原告に対し、九万四九六〇円、およびこれに対する被告らへ訴状送達の翌日であることが記録上明らかである昭和五〇年一二月六日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 相瑞一雄)